
テキスト
医療法人における「予算額」は、ある会計期間に想定される収入・支出を事前に見積もり、理事会などで承認された計画値を指します。
参考)「予算額」と「決算額」の違いとは?分かりやすく解釈
「決算額」はその期間に実際に発生した収入と支出を集計した実績値であり、診療報酬・補助金・人件費・材料費などの実際の動きを反映した数字になります。
この予算額と決算額の差額は、一般に「予実差額」「予算と決算の差異」と呼ばれ、計画と現実のズレを可視化し、経営の妥当性や業務運営の効率を評価するための重要な指標です。
予算額と決算額の差額は、収入と支出それぞれに対して「決算額−予算額」で算出されるのが標準的な扱いです。
参考)https://www.naro.go.jp/public_information/files/kessan_h2707.pdf
収入の差額がプラスであれば、予定より多くの収入を得たことを意味し、支出の差額がマイナスであれば、予定より支出を抑えられたことを示します。
参考)https://www.fukushima-u.ac.jp/Files/2018/02/zaimu/kessan22.pdf
一方で、収入のマイナス差額や支出のプラス差額は計画未達・コスト超過のシグナルとなり、医療安全や診療体制への影響も含めて、単なる増減だけでなく背景要因を丁寧に読み解く必要があります。
参考)https://www.kyokyo-u.ac.jp/jyohokokai/koukaihou22jyo/pdf/kessanhokoku.pdf
大学や公的研究機関の決算報告書では、「予算額」「決算額」「差額(決算−予算)」を並列して示し、その差異について個別の注記を付す形式が一般的です。
参考)https://www.mext.go.jp/content/20210506-mxt_hojinka-000014734_4-2.pdf
医療法人でも同様に、理事会資料や評議員会資料で予算額と決算額の差額を科目別に一覧表にし、主な差異について注記をつけることで、医療現場のスタッフにも納得感のある説明がしやすくなります。
参考)https://www.oita-nhs.ac.jp/uploaded/attachment/1180.pdf
この「差額+注記」のセットは、単に数字の比較に留まらず、診療方針の変更や人員採用状況など、医療現場の意思決定の履歴を記録する役割も持っています。
テキスト
予算額と決算額の差額が生じる主な要因として、まず患者数や診療内容の変動があります。
想定より入院・外来患者数が増えれば、診療報酬収入の決算額が予算額を上回る一方で、医薬品費や検査材料費などの支出も増加し、収入と支出双方で差額が発生します。
逆に、感染症流行の収束や地域医療構想による病床再編などで患者数が減少した場合、収入の決算額が予算額を下回り、支出側でも人件費や材料費に未執行分が生じることがあります。
二つ目の要因として、診療報酬改定や補助金制度の変更があります。
年度途中の診療報酬改定で特定の技術料が増減した場合、改定前に策定した予算額との間に差額が生じ、特に急性期病院では高額な診療行為が集中するため影響が大きくなります。
また、公的補助金や研究費は、獲得努力や申請採択状況により予算額と決算額に大きな差額が出ることがあり、大学附属病院や公的医療機関では「寄附金の獲得等に努めたため、予算金額に比べて決算金額が多額となっている」といった注記が頻繁に見られます。
三つ目に、人件費や設備投資などの支出側の計画と実績の差異があります。
医師・看護師・コメディカルの採用が予定より遅れた場合、予算額に比べて人件費の決算額が少額となり、その差額は「採用遅延に伴う人件費の未執行」として説明されます。
逆に、新病棟の立ち上げや新規医療機器導入で、当初計画よりも設備・什器等の支出が増加した場合、予算額との差額が大きくなり、減価償却費や維持管理費も含めて中長期的な収支への影響を検討する必要があります。
さらに、収入・支出ともに翌年度への繰越や不用額の扱いが差額に影響します。
公共工事など年度をまたぐ事業では、予算現額が「支出済額+翌年度繰越額+不用額」に分解され、決算額はそのうち支出済額部分のみが反映されるため、繰越や不用の多寡によって予算額と決算額の差額が変動します。
医療機関でも建物改修や大型機器更新など、複数年度にまたがるプロジェクトでは、予算額と決算額を単年度で見るだけでなく、プロジェクト全体の収支計画と実績を合わせて分析することが重要です。
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予算額と決算額の差額は、「良し悪し」を評価するためだけでなく、医療法人の戦略と診療現場の課題を浮かび上がらせるツールとして活用できます。
例えば、外来診療報酬の収入差額がプラスであれば、想定以上に患者が集まっている、あるいは高付加価値の診療行為が増えている可能性があり、現場では待ち時間やスタッフ負荷の増加が起きているかもしれません。
その場合、差額を根拠に診療体制の増員や診療時間の見直しを検討し、患者満足度と職員の働きやすさを両立する投資につなげることができます。
反対に、検査部門やリハビリ部門の収入差額がマイナスであれば、紹介患者の減少や施設基準の変更、機器故障による検査制限など、診療プロセスに何らかのボトルネックが生じている可能性があります。
このとき、単に「予算未達」として締めるのではなく、診療科別・部門別に予算額と決算額の差額を分析し、患者フローや予約システム、検査機器の更新計画など、具体的な改善策に落とし込む視点が重要です。
医療安全インシデントや苦情件数など、非財務指標と差額の動きを突き合わせることで、医療の質と経営指標を統合的に評価することも可能です。
人件費の差額の読み方も、医療法人ならではのポイントがあります。
採用遅延や欠員補充の遅れで人件費の決算額が予算額より少ない場合、一見すると「予算を節約した」と評価されがちですが、実際にはスタッフの負荷増加や残業時間の増加、離職リスクの高まりなど、見えないコストが蓄積している可能性があります。
逆に、人件費の決算額が予算額を上回る場合でも、診療報酬収入や患者満足度が改善しているのであれば、「攻めの人件費」としてポジティブに評価し、今後の診療戦略に反映させることができます。
差額を診療改善に直結させるためには、現場の医療従事者が予算額と決算額の基本概念を理解し、月次の収支報告において主要科目の差額を自分たちの業務と紐づけて考える習慣を持つことが重要です。
具体的には、部署別の「予算額・決算額・差額」の一覧を用い、診療ボリューム・勤務体制・設備使用状況などと合わせて振り返るミーティングをセットし、経営側と現場側の言語の違いを丁寧に橋渡しする工夫が求められます。
その過程で、差額の背景にある「意図的な投資」「やむを得ない支出」「改善可能なロス」を整理し、次年度の予算額設定と診療戦略に活かしていくことが、医療法人の持続的な成長につながります。
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予算額と決算額の差額は、単なる経営指標に留まらず、医療の質や安全、職員の働き方改革の進捗を間接的に映し出す「影の指標」として捉えることができます。
例えば、教育研修費や学会参加費の予算額に対して決算額が大幅にマイナス(未執行)であれば、忙しさから研修機会が削られている、あるいは研修の重要性が十分に共有されていない可能性があり、医療の質向上への投資が先送りされているサインかもしれません。
一方、感染対策費や医療安全関連投資の決算額が予算額を上回っている場合、現場の気づきに応じた迅速な改善が行われているとも読めるため、単純な「予算超過」として評価するのではなく、インシデント件数やアウトカム改善とセットで評価する必要があります。
働き方改革の観点からは、時間外手当や代替要員確保に関する支出差額が重要なヒントになります。
残業縮減を目的に時間外手当の予算額を抑えたものの、決算額では予算額を上回っている場合、業務量に見合った人員配置や業務プロセス改善が追いついていない可能性が高く、差額は「計画と現場の乖離」を示すシグナルとして機能します。
逆に、時間外手当の決算額が予算額を下回りつつ、医療の質指標が維持・向上しているのであれば、勤務シフトの再設計やICT活用などの改善施策が奏功している可能性があり、差額をポジティブな成果指標として位置づけることができます。
このように、予算額と決算額の差額を「お金の話」に閉じず、医療の質・安全・働き方の指標と組み合わせて解釈することで、医療法人の意思決定はより多面的で説得力あるものになります。
医療従事者自身が差額の意味を理解し、経営側と共通言語で議論できるようになると、現場からの改善提案が予算額の段階に反映されやすくなり、「決算で初めて驚く」状況を減らすことができます。
差額をきっかけに、医療の質指標や働き方指標を踏まえた対話を積み重ねることが、医療法人における信頼関係と持続可能な経営基盤の構築に直結していきます。
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予算額と決算額の差額を、単年度の「結果」として眺めるだけでなく、PDCAサイクルや品質改善サイクルに組み込むことで、医療法人の経営と診療の両面で継続的な改善が期待できます。
実務的には、まず部署別・科目別に予算額と決算額の差額を一覧化し、「差額が大きい項目」「毎年同様の傾向を示す項目」「前年と傾向が変化した項目」などを抽出して、優先度をつけて分析するステップが有効です。
次に、差額の背景要因を現場スタッフと一緒に洗い出し、「予測困難な外部要因」「内部の運用改善で対応可能な要因」「戦略的判断による意図的な差額」に分類することで、次年度以降の予算額設定と具体的な改善施策の方向性を明確にできます。
医療従事者にとって重要なのは、「予算額と決算額の差額は、自分たちの診療や働き方の結果が数字として表れたもの」という視点を持つことです。
例えば、感染対策用品の支出差額を見ながら、手指消毒の実施率や院内感染件数と関連づけて議論したり、検査材料費の差額を患者アウトカムや再入院率と結びつけて振り返ることで、数字と臨床の現場がつながっていきます。
こうした対話の積み重ねにより、予算策定段階から医療従事者の視点が取り込まれ、最初から現場にとって意味のある予算額が設定されるようになれば、決算時の差額も「想定の範囲内」「むしろ好ましい変化」として受け止めやすくなります。
医療法人によっては、決算報告書とあわせて、予算額と決算額の差額をわかりやすく解説する資料や職員向け説明会を実施しているケースもあり、こうした取り組みは現場と経営の距離を縮める上で参考になります。
自施設でまだ十分に行われていない場合でも、各部署で独自に「予算額・決算額・差額」をテーマにした振り返り会を設定し、小さな改善から始めてみることは可能です。
予算額と決算額の差額を通じて、自分たちの医療のあり方や働き方を見直す視点を持てるかどうかが、これからの医療法人におけるプロフェッショナリズムの一つの指標になっていくでしょう。
医療機関の決算書・予算と決算の差額の注記の具体例を確認したい場合には、文部科学省が公開している独立行政法人や大学法人の決算報告書の様式が参考になります。
医療機関にも応用可能な決算報告書(例)の様式と注記の構成を確認できる資料