
代謝性アルカローシスとは、主に血中の重炭酸イオン(HCO₃⁻)濃度が増加することで血液のpHが7.45を超えてアルカリ側に傾いた状態を指します。
参考)代謝性アルカローシス - 10. 内分泌疾患と代謝性疾患 -…
酸塩基平衡の異常の中では、代謝性アシドーシスや呼吸性アルカローシスと比べて直感的に理解しづらいとされ、研修医・若手医療者から「苦手分野」として挙げられることも多い病態です。
参考)代謝性アルカローシスをわかりやすく解説【症状・原因・治療・検…
病態生理の整理としては、①酸(H⁺)の喪失、②アルカリ(HCO₃⁻)の負荷、③H⁺とK⁺の細胞内外移動、④腎でのHCO₃⁻貯留・再吸収亢進のいずれか、あるいは組み合わせで生じると考えると全体像がつかみやすくなります。
参考)https://www.jmedj.co.jp/blogs/product/product_28560
臨床的には、尿中Cl濃度で「Cl反応性(尿中Cl<10~20 mEq/L)」と「Cl不応性(尿中Cl>20 mEq/L)」に分類すると、原因検索と輸液戦略の決定がスムーズになります。
参考)Table: 代謝性アルカローシスの原因-MSDマニュアル …
代謝性アルカローシスの原因として最も頻度が高いのは、嘔吐や胃管吸引による胃酸(HCl)の喪失と、サイアザイド系・ループ利尿薬の使用に伴う体液量減少および電解質異常です。
これらの病態では、体液量減少を補うためにレニン–アンジオテンシン–アルドステロン系(RAA系)が亢進し、ナトリウム再吸収の代償としてカリウム(K⁺)と水素イオン(H⁺)排泄が促進されることで、相対的なHCO₃⁻増加とアルカローシスが進行していきます。
一方で、炭酸水素ナトリウム製剤や制酸薬の過量投与、クエン酸ナトリウムや乳酸を含む輸液の過剰投与など、外因性にアルカリが負荷されるケースも無視できません。
さらに、原発性アルドステロン症やクッシング症候群などのミネラルコルチコイド過剰状態、バーター症候群・ギテルマン症候群、重度の低K血症・低Mg血症など、腎尿細管でのイオン取り扱い異常を背景とした代謝性アルカローシスも重要な鑑別として挙げられます。
参考)https://www.jmedj.co.jp/premium/treatment/2017/d070912/
代謝性アルカローシスそのものは、軽症では無症状のことも多く、基礎疾患の症状(嘔吐、脱水、利尿薬使用中の浮腫など)が前面に出て見過ごされがちです。
しかしpHが7.55を大きく超えるような高度アルカローシスでは、神経筋興奮性の亢進により、しびれ感、筋痙攣、テタニー、意識障害、けいれん、致死的不整脈など重篤な症状が出現し得るため、早期認識が極めて重要になります。
参考)https://www.apollohospitals.com/ja/diseases-and-conditions/metabolic-alkalosis
アルカローシスでは血中イオン化カルシウムが低下しやすく、これがテタニー症状の一因となる点は意外に忘れられがちなポイントです。
また、低K血症に伴う筋力低下や心電図異常、低Cl血症・体液量減少に伴う起立性低血圧や腎機能悪化など、電解質異常と循環動態の変化を合わせて評価することが、臨床的な「危険度」の見積もりに直結します。
代謝性アルカローシスの診断は、動脈血液ガス分析(ABG)と血清電解質の評価を組み合わせて行います。
ABGでは、pH>7.45かつHCO₃⁻>24 mEq/Lを基本的な診断基準として捉え、PaCO₂は呼吸性の代償として上昇するため、期待されるPaCO₂との乖離がないかどうかを確認して混合性障害の有無を判断します。
血清電解質評価では、Na⁺・K⁺・Cl⁻に加えて、陰イオンギャップや血清Mg²⁺をチェックするとともに、「低Cl血症+低K血症」の組み合わせを見たら代謝性アルカローシスを強く疑う、というパターン認識が有用です。
さらに一歩踏み込んだ評価として、尿中Cl濃度(10~20 mEq/L未満でCl反応性、20 mEq/L超でCl不応性)や尿中K排泄を測定することで、嘔吐・利尿薬などの体液量減少型か、ミネラルコルチコイド過剰や腎尿細管異常などのCl不応性型かを絞り込むことができます。
代謝性アルカローシスの治療の原則は、「原因の是正」と「体液量・電解質の補正」を並行して行うことです。
嘔吐や胃液吸引が原因であれば、制吐薬や胃管管理の見直しとともに、生理食塩水(NaCl)による補液を行い、尿中Clが低いCl反応性アルカローシスではNaCl投与により腎からのHCO₃⁻排泄を促して病態の改善を図ります。
低K血症や低Mg血症があれば、KCl・Mg製剤による補正を優先し、特に高度の低K血症では速やかな補正が不整脈予防の観点からも重要です。
ミネラルコルチコイド過剰が疑われる場合には、スピロノラクトンなどの抗アルドステロン薬の投与や、原発性アルドステロン症・クッシング症候群への根治的治療(外科的介入を含む)を検討します。
高度のアルカローシス(pHが7.60を超えるなど)で循環動態が不安定な場合、アセタゾラミド投与によるHCO₃⁻排泄促進や、慎重なHCl・NH₄Cl投与、透析療法などの選択肢も報告されていますが、適応とリスク評価には専門家の関与が不可欠です。
また、透析患者では透析液のHCO₃⁻濃度設定や除水量の調整が代謝性アルカローシスの発症・増悪に影響することがあり、血液浄化療法に携わるチームでの情報共有が求められます。
代謝性アルカローシスの「意外な原因」として注目されているものの一つが、グリチルリチンを含む甘草製剤や漢方薬の長期使用です。
また、プロトンポンプ阻害薬(PPI)などによる長期の胃酸分泌抑制は、胃酸分泌に伴うH⁺排泄が抑制されることで、軽度ながら相対的なHCO₃⁻増加をもたらし、既存のアルカローシスをマスクあるいは増悪させる可能性が指摘されています。
さらに、下剤乱用、飢餓後の炭水化物再摂取、ある種の抗菌薬(カルベニシリンなど)による非再吸収性陰イオン負荷など、一般的な解説書にはあまり出てこない機序でも代謝性アルカローシスが生じうるため、背景疾患や服薬歴の詳細な聴取が診断の鍵となります。
代謝性アルカローシスの病態生理と治療方針について網羅的に解説した日本語の総説として、日本内科学会雑誌のレビュー論文が参考になります(重症例における管理戦略や特殊な原因について詳しい部分の参考に)。
代謝性アルカローシスの原因一覧と詳細な機序、Cl反応性とCl不応性の整理には、MSDマニュアル プロフェッショナル版が有用です。
MSDマニュアル プロフェッショナル版「代謝性アルカローシス」
臨床現場ですぐ使える診断・治療アルゴリズムやCl反応性の見分け方、輸液と電解質補正の具体例については、医療従事者向け解説サイトの日本語記事も実務的な参考になります。
代謝性アルカローシスをわかりやすく解説【症状・原因・治療】
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