葉酸を毎日飲ませている患者さんは、MTXの効果が落ちている可能性があります。

メトトレキサート(リウマトレックス®、以下MTX)は関節リウマチ治療のアンカー・ドラッグとして1988年に適応を取得し、30年以上にわたって使われてきた薬剤です。しかし、副作用が重篤化した場合には死亡に至るリスクがあります。
日本リウマチ学会のMTX診療ガイドラインによると、MTXとの因果関係が否定できない死亡症例は361例報告されています。その内訳は以下の通りです。
参考)https://minds.jcqhc.or.jp/common/summary/pdf/c00109_chapter9.pdf
骨髄障害が最も多く、全死亡例の3分の1超を占めます。これは重要な事実です。
間質性肺炎については、発症年齢が60歳代(36.4%)と70歳代(39.1%)に集中しています。投与量は85.1%が4〜6mg/週という通常治療域であり、用量依存性の指摘はないという点が医療従事者にとって非常に重要な知識です。
関節リウマチ治療におけるMTX診療ガイドライン 副作用への対応(Mindsガイドラインライブラリ)
骨髄障害はMTX血中濃度依存性の副作用であり、白血球減少と血小板減少が典型的な所見です。重症例では汎血球減少に進行します。
危険因子のうち、医療従事者が日常診療で最も把握しておくべきものを下表に示します。
| 危険因子 | 閾値・具体例 | なぜリスクになるか |
|---|---|---|
| 腎機能障害 | GFR < 60 mL/分 | MTXは80〜90%が腎排泄。腎不全で致死的骨髄障害が起こる |
| 高齢 | 70歳超 | 潜在的腎機能低下+脱水でMTX血中濃度が中毒量に達する |
| 葉酸欠乏 | MCV > 100 fL、口内炎 | 葉酸欠乏は骨髄障害を予測する |
| 多剤併用 | 5剤以上 | NSAIDsは腎血流を低下させMTX排泄を遅らせる |
| 低アルブミン血症 | 血中アルブミン低下 | 遊離MTXが増え骨髄毒性が高まる(通常42〜57%がアルブミン結合) |
見落としやすいポイントがあります。高齢者の嘔吐・下痢による脱水が見落とされがちです。脱水になるとMTX血中濃度が著しく上昇し、いままで問題なかった患者でも急速な骨髄障害が出現します。
口内炎や口腔内びらんが脱水に伴う骨髄障害の初期サインとなることも押さえておきたい点です。
対処方法として、骨髄障害発症時は直ちにMTXを中止し、重症例(白血球<1,500/mm³、血小板<50,000/mm³)では活性型葉酸(ロイコボリン®)によるレスキューと十分な輸液を行います。無顆粒球症にはG-CSFを、高度血小板減少には血小板輸血を考慮します。
医薬品安全対策報告:メトトレキサートの過剰投与に伴う骨髄抑制(独立行政法人 医薬品医療機器総合機構)
MTX肺炎の発現頻度は1〜7%とされる一方、死亡率は13%という報告があります。これが基本です。
MTX開始後1年以内の発症が65.0%を占め、早期から注意が必要です。一方で平均31.0カ月(4〜104カ月)での発症報告もあり、長期投与中も油断できないということです。
危険因子として、既存のリウマチ性肺障害、高齢、糖尿病、低アルブミン血症、過去のDMARDs使用歴が挙げられています。ただし、リスク因子のない症例に発生することも少なくないため注意が必要です。
MTX肺炎が疑われた場合の対処フローを整理します。
再投与について注意点があります。MTX再投与により薬剤性肺炎の再燃が25%にみられると報告されているため、再投与は行わないことが原則です。
症状発現から診断までの期間は平均8±6日とされています。意外ですね。この数日の判断が予後を左右します。
メトトレキサート(MTX)による肺障害の解説(亀田メディカルセンター)
感染症による死亡例は361例中61例(16.9%)。主な感染症別の内訳は以下の通りです。
見落とされやすい点として、クリプトコッカス感染症による死亡例が2例報告されており、この感染症はβ-Dグルカンでスクリーニングできないため特別な注意が必要です。
重篤感染症の約80%はMTX開始後2年間に発現します。長期投与で感染リスクが増えるわけではありませんが、開始初期の集中したモニタリングが欠かせません。
感染症予防の実践的チェックリストとして押さえておきたい点を示します。
感染症死亡例の23.0%に呼吸器障害が、18.0%に血液障害が併発していたという事実も見逃せません。複合的な臓器障害が死亡リスクを高めます。
日本リウマチ学会:メトトレキサートを服用する患者さんへ(医療従事者向け患者指導資材)
葉酸の適切な投与はMTX副作用を大幅に軽減します。2018年のCochrane系統的レビューでは、葉酸の追加により副作用発現率が79%から40%へと約半減したと報告されています。
参考)メトトレキサート(MTX)完全ガイド|作用機序・用量調整・副…
推奨用量は葉酸 5〜10 mg/週であり、MTX内服後24〜48時間後の投与が標準的です。ただし、1点だけ覚えておけばOKです。MTX投与日と同日の葉酸5 mg以上の投与は避けること、これが原則です。
一方、薬物相互作用によって死亡リスクが高まるケースも報告されています。
| 併用薬 | 相互作用の機序 | リスク |
|---|---|---|
| NSAIDs(インドメタシン等) | 腎血流低下→MTX排泄遅延→血中濃度上昇 | 骨髄障害の増強 |
| ST合剤(治療量) | 葉酸代謝阻害の相加作用 | 骨髄抑制(予防量は問題なし) |
| ペニシリン系抗菌薬 | 腎からのMTX排泄を競合阻害 | MTX濃度上昇 |
| レフルノミド | 骨髄抑制の相加 | 汎血球減少リスク |
| アルコール | 肝毒性の増強 | 肝硬変・肝線維症リスク上昇 |
処方確認の場面で特に注意したいのは、NSAIDsの併用です。市販薬を含め、患者が自己判断で使用しているケースがあります。副作用モニタリング時には必ず確認しましょう。
アルコールについては、JCR推奨では1合/日以下(ビール中瓶1本)ならリスクはほぼ上がらないとされています。週2回以上の飲酒や大量摂取は避けるよう患者指導することが重要です。
定期モニタリングとして、2〜3カ月ごとに末梢血検査(白血球分画・MCV含む)と腎機能・肝機能を評価することが基本的な安全管理の枠組みです。
メトトレキサート(MTX)完全ガイド|作用機序・用量調整・副作用・葉酸併用(豊田土橋リウマチクリニック)
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