「代替薬に切り替えれば、ポリカルボフィルカルシウムと同等の効果が得られる」と思っているなら、それは大きな誤りです。混合型IBSに限っては、現時点で保険適用の完全代替薬は存在しません。

ポリカルボフィルカルシウム(以下、ポリフル/コロネル)をめぐる供給問題は、単独の事案ではありません。同成分を持つコロネルが2024年1月に製造中止となり、続いてポリフルも2025年7月に在庫消尽後の出荷停止が予告されました。
参考)【お知らせ】過敏性腸症候群のお薬「ポリフル」の製造一時中止に…
背景には、薬価の低さと製造の集中という構造的な問題があります。ポリフルは北陸の1つの工場(福井県の製造委託先)で製造されており、その工場での事象が発生したことで一気に供給が止まりました。薬価が非常に安価なため、メーカー側の製造継続インセンティブが乏しく、在庫余力も小さい状態が続いていました。
| 製品名 | メーカー | 剤形 | 出荷状況(2025年~) |
|---|---|---|---|
| ポリカルボフィルCa細粒83.3%「日医工」 | 日医工(富士化学工業承継) | 細粒 | 2024年10月より限定出荷→2025年11月19日に通常出荷再開 |
| コロネル錠500mg / 細粒83.3% | アステラス製薬(EA製薬) | 錠・細粒 | 2024年1月に製造中止 |
ポリカルボフィルカルシウムが「代替困難」と言われる最大の理由は、その独特の作用機序にあります。腸管内で水分を吸収して便を固める一方、水分を保持することで便秘にも対応できるという「双方向性」を持ちます。つまり、下痢にも便秘にも対応できる薬です。
IBSの最新ガイドライン(機能性消化管疾患診療ガイドライン)では、ポリカルボフィルカルシウムの推奨度は「強」、エビデンスレベルは「A」とされています。これは日本のIBS治療薬の中でも最上位クラスの評価です。
参考)https://pharmacist.m3.com/column/gigi_rumi/7184
特に問題となるのが混合型(IBS-M)です。ポリフルの在庫が底をつく前に、担当患者がIBS-Mかどうかを確認しておくことが肝心です。また、IBS患者の約75%は1年以内に他の病型に移行するとされており、症状の型を改めて評価し直すことで、代替薬が見つかるケースもあります。これは使えそうです。
薬局での実際の対応として、まず処方箋を受け取った時点で在庫確認と代替薬の候補整理を行うことが基本です。単に「在庫がない」と伝えるだけでは不十分で、代替案の提示が求められます。
実際の処方提案の事例では、まず患者に症状の聴取(下痢・便秘どちらが優勢か、腹痛・腹部膨満感の有無、ストレス関連性)を行い、その情報を元に医師への提案を組み立てることが有効とされています。「困ったなあ」という医師の反応を想定した事前準備が重要なのです。
ただし、注意点がひとつあります。代替薬として候補に挙がりやすいトリメブチン(商品名:セレキノン)もまた出荷調整中であることが報告されています。複数の患者に新規処方を出した場合、既存患者分の在庫が不足するリスクがある点を医師に伝えることが、真のチーム医療につながります。在庫の確保が条件です。
参考リンク(ポリフル出荷停止後の代替提案の具体的事例・ガイドラインに基づくエビデンス解説)。
出荷停止のポリフル、ドクターへの代替薬提案どうする!? - m3.com薬剤師
出荷調整情報は日々更新されるため、情報ソースの選択が対応の遅速を左右します。ここが意外と見落とされがちです。
一般社団法人 医薬政策企画 P-Cubedが定期的に「入手困難品目リスト」を公開しており、2週間おきに更新されます。個々の企業情報よりも、複数品目を横断的に確認できる点で実用性が高く、調剤薬局での在庫管理に直結します。また、DSJP(医療用医薬品供給状況データベース)では品目ごとに代替品検索が可能で、出荷状況の履歴も確認できます。
参考)【モニター薬局調査】全入手困難品目リスト(1月5日~1月18…
施設内での対応体制という観点からも変化があります。2026年調剤報酬改定では、医薬品供給対応体制に関する加算の施設基準が設けられており、薬局としての情報収集体制が評価対象になりつつあります。つまり、出荷調整情報の把握は、患者対応だけでなく、算定要件にも関わる業務になっています。
参考)地域支援・医薬品供給対応体制加算の施設基準に思う(2026調…
参考リンク(2026年調剤報酬改定・医薬品供給対応体制加算の施設基準の概要)。
地域支援・医薬品供給対応体制加算の施設基準に思う(2026調剤報酬改定)
多くの薬局では、出荷調整情報を「受け取ってから対応する」という受動的なフローになりがちです。しかし、今回のポリフルのケースでは、製造委託先工場の監査の進捗という「川上の情報」を早期にキャッチできていた医療機関は、代替処方の移行を計画的に進めることができていました。
コロネルの製造中止(2024年1月)が起きた時点で、同成分のポリフルの供給リスクを予見し、早めに患者の症状型再評価を始めた施設が、2025年の出荷停止後も混乱が少なかったとされています。結論はリスク先読みが差を生む、ということです。
薬価の安い薬剤ほど供給リスクが高いという傾向は、過去の薬不足事案でも繰り返されています。特に、製造拠点が1か所に集中している品目は要注意です。処方頻度が高く薬価が低い薬剤のリストを定期的に確認し、代替薬・代替手段を事前に整理しておくことが、安定した患者ケアの礎になります。
参考リンク(ポリフル製造再開の経緯・供給状況の詳細、Medical Tribune掲載)。
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