
乳酸塩とは、乳酸(2-ヒドロキシプロパン酸)が解離してできる乳酸イオン CH3CH(OH)COO⁻ を含む塩を指し、英語では lactate と表現されます。
参考)乳酸塩 - Wikipedia
乳酸そのもの(lactic acid)はプロトンを持つ酸であるのに対し、乳酸塩(lactate)はその共役塩基であり、ナトリウムやカリウム、カルシウムなどの陽イオンと結合した形で存在します。
参考)Sodium lactate - Wikipedia
代表的な乳酸塩として、輸液や食品添加物に用いられる乳酸ナトリウム(sodium lactate)、カルシウム補給や骨粗鬆症治療にも使われる乳酸カルシウム(calcium lactate)が挙げられます。
参考)「Lactate」の意味や使い方 わかりやすく解説 Webl…
臨床現場で「乳酸」と呼んでいる値は、血中に存在する乳酸イオン=乳酸塩の濃度を指しており、厳密には「乳酸塩濃度」と理解した方が酸塩基平衡を考えるうえで整合的です。
参考)乳酸値:上昇の理由
乳酸は光学異性体(L体とD体)を持ち、生体内で主に代謝されるのは L-乳酸塩ですが、医薬品や透析液などで D-体あるいはラセミ体が含まれると代謝負荷や酸塩基への影響が変わる可能性がある点は、意外と見落とされがちなポイントです。
乳酸塩は解糖系の最終産物として、ピルビン酸が乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)により還元される過程で生成され、多くの組織で常に産生・利用されています。
「乳酸=疲労物質」というイメージが一般的ですが、実際には乳酸塩は重要なエネルギー基質であり、心筋や肝臓に取り込まれて再利用される「乳酸シャトル」の概念が提唱されています。
一方、重症敗血症やショックでは乳酸塩の異常高値とクリアランス低下が予後不良と関連し、血中乳酸塩は単なる瞬間値ではなく時間経過で追うべき「ダイナミックな指標」であることが強調されています。
乳酸塩の血中基準値は施設によって異なりますが、おおむね 0.5〜2 mmol/L 程度の範囲に収まることが多く、この範囲を超える持続的上昇は臨床的な評価が必要になります。
乳酸塩の増加は、組織への酸素供給不足(低酸素血症、循環不全)に加え、肝不全や薬剤性(メトホルミン、ヌクレオシド系抗 HIV 薬など)による乳酸代謝低下でも生じるため、「産生過剰」と「クリアランス低下」の両面から原因を検討する必要があります。
また、近年は乳酸塩値そのものよりも「乳酸塩クリアランス(一定時間内の低下率)」が予後予測に有用であるとする報告が増えており、初期高値でも短時間で有意に低下すれば予後良好と関連する可能性が示されています。
乳酸塩増加の原因と分類
乳酸塩は医薬品として、電解質補正と循環血液量の維持を目的とした輸液(いわゆる乳酸リンゲル液)の陰イオンとして広く用いられており、注入後に肝臓などで代謝されて重炭酸イオンを生み出す「代謝性アルカリ化剤」として機能します。
乳酸ナトリウムは、ナトリウムの供給源であると同時に、血漿浸透圧を保つ役割も果たし、化粧品や食品では保湿剤・pH調整剤・保存料として利用されています。
参考)https://www.recolor.jp/seibun/nyusan_na.html
乳酸カルシウムはカルシウム補給剤として、低カルシウム血症や骨粗鬆症の治療、妊婦や成長期児の補給などに用いられ、スポーツドリンクやサプリメント、ベーキングパウダーの原料、さらには虫歯予防目的で歯科領域でも利用されています。
一見すると同じ「乳酸塩」でも、陽イオンの違いによって臨床的な意味は大きく異なり、高ナトリウム血症リスクや心不全患者の水分管理など、患者背景を踏まえた製剤選択が重要となります。
食品分野では、乳酸塩が微生物の増殖抑制や風味改善、保水性の向上など多彩な機能を持つことから、ハム・ソーセージ、漬物、パンなどで広く使用されており、医療者が患者の食事内容を確認する際にも、ナトリウム負荷や腎機能への影響を意識する一助となり得ます。
乳酸カリウムの安全性評価報告書
参考)https://www.fsc.go.jp/fsciis/attachedFile/download?retrievalId=kai20080617te1&fileId=106
例えば、乳酸リンゲルを大量投与中の患者では、投与された乳酸塩自体が一時的な高値に寄与している可能性があり、肝機能が保たれていれば時間とともに代謝されるため、単回測定のみで予後を悲観するのは適切ではありません。
逆に、見かけ上の乳酸塩値が正常〜軽度上昇に留まっていても、高齢者や免疫抑制状態では代謝能力の低下や検査頻度の不足から、実際の組織低酸素を過小評価してしまうことがあり、臨床像と検査値のギャップを意識する視点が重要です。
また、D-乳酸塩が関与する D-乳酸アシドーシスは短腸症候群など一部の病態でみられ、通常の L-乳酸測定では見逃されることがありますが、意識障害や失調など神経症状を伴う「謎のアシドーシス」として現れる点は、あまり知られていない落とし穴です。
さらに、乳酸塩は免疫細胞の機能や炎症の場の pH を修飾することで、腫瘍微小環境や自己免疫疾患の病態にも影響する可能性が指摘されており、今後は「単なる代謝産物」から「シグナル分子」としての位置づけが、がん免疫療法などの文脈でも重要になってくるかもしれません。
乳酸と乳酸塩の基礎情報
乳酸塩の基礎と臨床像をここまで整理したうえで、あなたの現場では乳酸塩値と患者の全身状態をどのように結びつけて解釈していきますか?
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