PPNを「とりあえず維持液代わり」に使っていると、患者の栄養状態が2週間で悪化するリスクがあります。

静脈栄養法(parenteral nutrition:PN)には、大きく2種類あります。末梢静脈から投与する末梢静脈栄養法(PPN:peripheral parenteral nutrition)と、心臓近くの太い血管を使う中心静脈栄養法(TPN:total parenteral nutrition)です。
参考)末梢静脈栄養(PPN)
PPNが選択されるのは、一般に食事ができない期間が1〜2週間程度と予測される場合です。 一方、2週間を超えると予測される場合はTPNへの移行が検討されます。基本は「消化管が使えるかどうか」から考えます。
PPNの最大のメリットは、手技や管理がTPNに比べて簡便なことです。 末梢静脈にカテーテルを挿入するだけで開始できるため、中心静脈カテーテル(CVC)の穿刺リスクを避けられます。看護師がカテーテルを留置する施設も増えています。
参考)静脈栄養の適応と管理
一方でPPNの制約は、使用できる輸液の浸透圧比が3以下に限られること。 末梢血管は中心静脈に比べて血流量が少なく、高浸透圧の輸液に曝された内皮細胞が脱水・損傷を受け、血栓性静脈炎を起こしやすいためです。 つまり高濃度の糖やアミノ酸を多く入れられない、という構造的な限界があります。
参考)Chapter3 静脈栄養 1.2 PPN製剤の種類と適応|…
| 比較項目 | PPN(末梢静脈栄養) | TPN(中心静脈栄養) |
|---|---|---|
| 投与経路 | 末梢静脈(皮静脈) | 中心静脈(上大静脈) |
| 浸透圧比の上限 | 約3以下 | 制限なし |
| 使用期間の目安 | 〜14日 | 長期可能 |
| 最大エネルギー量 | 約1,300 kcal/日 | 制限なし(2,000 kcal以上も可) |
| 静脈炎リスク | あり | 低い |
| 管理の簡便さ | ◎ | △(感染管理が必要) |
浸透圧比の制限が、PPNのすべての制約につながっています。これが基本です。
PPNに用いられる製剤は大きく2種類に分類されます。①ビタミン・糖・電解質・アミノ酸液(いわゆるPPN用輸液製剤)と、②脂肪乳剤を1バッグに含む製剤です。
現場でよく使われる代表的な製剤を整理します。
ポイントは、ビーフリード® 4袋(2,000 mL)だけでは総エネルギーが840 kcalにとどまること。 体重50 kgの患者では16.8 kcal/kg/日にしかならず、基礎代謝すら賄えないケースがあります。
参考)[3] 末梢静脈栄養法(PPN)[peripheral pa…
脂肪乳剤200 mL(400 kcal)を追加することで、初めて1,240 kcalに達します。 これが「脂肪乳剤を毎日併用する」原則の根拠です。つまりPPN=ビーフリードだけ、と考えると栄養が不足します。
なお製剤選択に迷う場面では、NPO法人PDNの臨床栄養レクチャーが各製剤の組成を一覧で確認できる参考になります。
PPNに使用できる各製剤の詳細な組成表・NPC/N比の解説はこちら。
Chapter3 静脈栄養 1.2 PPN製剤の種類と適応 - NPO法人PDN
現場では脂肪乳剤を「怖い」「感染リスクが高そう」と敬遠する医療従事者が少なくありません。しかし実際には、脂肪乳剤は思われているほど非生理的でも危険でもありません。
食事として摂取した中性脂肪は、消化・吸収後に小腸上皮でキロミクロンとなって胸管経由で静脈角から体内に入ります。一方、上大静脈に注入された人工脂肪粒子は直ちに偽キロミクロンとなります。 この2つの動態は本質的に類似しており、脂肪乳剤投与が特別に危険という根拠はありません。
むしろ問題なのは、脂肪乳剤を隔日や週1〜2回にする投与方法です。 これは非生理的であり、何ら利点がないとされています。毎日投与が原則です。
脂肪乳剤の側注速度にも注意が必要です。20%脂肪乳剤の場合、生体の加水分解能力を考慮して(体重÷2)mL/時以下の速度での投与が推奨されています。 体重50 kgの患者なら25 mL/時以下が目安、これはコップ一杯(200 mL)を8時間かけて投与するイメージです。
また脂肪乳剤をPPN用輸液製剤と直接混合して投与することは推奨されません。 混合すると脂肪の粒子径が大きくなるためです。三方活栓を用いてサイドラインから側注する方法が標準的です。これは必須です。
「PPNは14日以内」というルールは、多くの教科書やガイドラインに記載されています。しかし、この14日という数字にあまり縛られる必要はありません。
14日はあくまで「一つの目安」です。患者の病態・必要エネルギー量・PPNによる投与量が必要エネルギーをどの程度下回っているかを総合的に判断して、栄養管理の方針を決定します。 機械的に14日でTPNへ切り替えることが、常に正解とはいえません。
一方でPPNを惰性で続けることの危険性も理解しておく必要があります。栄養状態が不良な患者に2週間PPNを継続すると、逆に栄養状態が低下するリスクがあるとされています。 PPNが入っているから栄養管理できている、という思い込みが最も危険です。
PPNの適応を整理するとこうなります。
PPNが適さないのは、栄養状態が著しく不良で高エネルギー投与が必要な症例、水分制限が厳しい心不全症例などです。 心不全患者ではPPN用輸液製剤を4袋使うと2,000 mL以上の水分負荷になるため、浮腫や心不全増悪に注意が必要です。
日本臨床栄養学会や日本静脈経腸栄養学会(JSPEN)のガイドラインも参考にしながら、適応判断の根拠を持っておくことが臨床の質を高めます。
JSPENによる静脈経腸栄養の実践的解説はこちら。
栄養補給経路について考えてみませんか? - 国立長寿医療研究センター
PPNの現場運用で意外と知られていないのが、高カリウム血症時の対処法です。PPN用輸液製剤1袋にはカリウムが10 mEq(約400 mg)含まれています。 3袋では約1,200 mg、4袋では約1,600 mgになります。
保存期慢性腎不全患者のカリウム制限は1日1,500 mg以下、維持血液透析患者では2,000 mg以下が食事指導の目安です。 意外なことに、PPN用輸液製剤1,500 mL(3袋)に含まれる約1,200 mgのカリウムは、これらの慢性腎臓病患者にも安全な範囲内に収まります。厳しいところですね。
ただし血清カリウム値が高値の場合、PPN製剤を中止して1号液(維持液)に切り替えることがあります。しかし1号液はPPN用製剤に比べてナトリウムが約2倍、エネルギーは約4分の1しかありません。 これでは栄養管理の観点から大きな後退です。
そのような場合は10%ブドウ糖液・10%アミノ酸製剤・10%食塩水を組み合わせた手作り処方が有効です。 具体的には10%グルコース1,000 mL+10%アミノ酸製剤400 mL+10%NaCl 30 mLを混合します。こうするとカリウムを含まず、かつPPN用製剤に近い組成のエネルギー量・アミノ酸量を確保できます。
重要な注意点が1つあります。手作り処方でブドウ糖液とアミノ酸製剤を別々の時間帯に投与してはいけません。 体タンパクの合成は、血中インスリン濃度とアミノ酸濃度が同時に閾値を超えた場合にのみ進行します。交互投与では体タンパクが合成されないのです。必ず同一バッグ内で混合するか、同時に並行して投与します。
電解質管理を含むPPN実践については、MSDマニュアルのプロフェッショナル版も実用的な参考になります。
静脈栄養(PN) - MSDマニュアル プロフェッショナル版
医療現場には「3号液(維持液)を入れているから大丈夫」という無意識の安心感が存在します。これが意外と深刻な問題につながります。
3号液はその名称から「栄養状態を維持する輸液」と勘違いされることが多いですが、3号液にアミノ酸は含まれていません。 アミノ酸なしで絶食状態を数日以上続けると、窒素平衡は一貫して大きく負に傾きます。負の窒素平衡とは骨格筋の崩壊が進んでいる状態を指します。つまり3号液だけでは筋肉が溶けています。
体内のグリコーゲン貯蔵量は非常に限られています。健常成人では肝臓に約100 g、骨格筋に約300 gのみ。 脳と赤血球が消費するブドウ糖の基礎量は1日160 gとされており、グリコーゲン貯蔵は1日分にすら満たない計算です。グリコーゲンが枯渇すると、骨格筋タンパクを分解して糖新生が始まります。
この骨格筋崩壊を防ぐために、絶食患者への栄養管理は48時間以内、できれば24時間以内に開始することが推奨されています。 手術後や救急患者で「とりあえず3号液」を選択している間に、患者の骨格筋は損耗し続けます。厳しい現実ですね。
だからこそPPN製剤の種類と特性を正確に知っておくことに意味があります。ビーフリード®やエネフリード®の選択は、単なる製品の好みではなく、窒素源が入っているかどうか、必要エネルギーに届いているかどうか、という栄養管理の根拠から導かれるべきものです。 製剤の名前だけでなく組成を確認するクセが、患者アウトカムの改善に直結します。
各種ガイドラインで推奨されている栄養投与経路の考え方はこちら。
末梢静脈栄養法(PPN) - ニュートリー株式会社 臨床栄養キーワード
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