糖尿病患者にクエチアピンを普通に処方すると、原則禁忌に触れます。

クエチアピンは非定型抗精神病薬のひとつで、MARTA(多元受容体標的化抗精神病薬)というグループに属します。ドパミン受容体だけでなくセロトニン受容体やヒスタミン受容体にも作用するのが特徴です。この幅広い受容体作用が、精神症状の改善と鎮静効果の両方をもたらしています。
参考)クエチアピンおよびMARTAについて解説します【精神科医が一…
たとえるなら、1つの鍵穴だけでなく複数の鍵穴に合う万能鍵のようなイメージです。従来の定型抗精神病薬がドパミン受容体だけを狙い撃ちするのに対し、クエチアピンは複数の経路を同時に調整します。つまり作用の幅が広い薬ということですね。
その分、副作用の出方も多様になりやすい傾向があります。商品名はセロクエル、徐放性製剤はビプレッソとして流通しており、ジェネリックも複数のメーカーから発売されています。
参考)医療用医薬品 : クエチアピン (クエチアピン錠25mg「ト…
双極性障害についてはビプレッソ徐放錠が使われ、躁病エピソードとうつ病エピソードの両方に対応できる点が特徴です。1つの成分で2つの病相をカバーできるのは、精神科領域でも珍しい部類に入ります。これは使えそうです。
海外では大うつ病性障害の補助療法として使われる例もありますが、日本国内での適応外使用にあたるため注意が必要です。臨床報告では双極性障害の症例でクエチアピンが有効だったケースも紹介されています。
参考)https://www.apollohospitals.com/ja/medicines/quetiapine
クエチアピンの代表的な副作用は眠気、めまい、口渇、体重増加です。中でも見落とされがちなのが血糖値への影響で、高血糖や糖尿病性ケトアシドーシス、糖尿病性昏睡が添付文書上の重大な副作用として明記されています。
参考)https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/iyakuDetail/ResultDataSetPDF/270428_1179042F1127_1_10
日本の添付文書では、糖尿病または糖尿病の既往歴がある患者への投与は原則禁忌とされています。海外の一部情報では「注意して使用」という記載にとどまるケースもあり、この差を知らないと処方時に思わぬリスクを負うことになります。糖尿病の既往確認は必須です。
高血糖の初期症状としては口渇、多飲、多尿、頻尿があり、これらのサインを患者本人や家族に事前に伝えておくと早期発見につながります。血糖値のモニタリングを定期的に行う運用ルールを診療科内で共有しておくと安心です。
クエチアピンはCYP3A4という肝臓の酵素で代謝されるため、この酵素に影響する薬剤との併用には注意が必要です。ケトコナゾールのようなCYP3A4阻害薬と併用すると血中濃度が上昇しやすく、逆にカルバマゼピンのような誘導薬では効果が弱まることがあります。
中枢神経抑制作用のあるアルコールやベンゾジアゼピン系薬剤との併用も、鎮静効果を強めてしまう組み合わせです。どういうことでしょうか?単純に眠気が強くなるだけでなく、転倒リスクや呼吸抑制のリスクも高まるということです。
SSRIやSNRIとの併用ではセロトニン症候群のリスクにも配慮が求められます。薬剤の併用歴を確認する際は、お薬手帳や電子カルテの併用薬チェック機能を使うと見落としを防ぎやすくなります。
あまり知られていない使い方として、少量のクエチアピンを不眠治療の補助に用いる臨床現場が一定数存在します。抗ヒスタミン作用による眠気を利用し、50mg以下の少量を睡眠導入目的で処方するケースです。
ただしこれは日本国内で正式に承認された適応ではなく、あくまで適応外処方にあたります。効果が期待できる一方で、糖尿病リスクや過鎮静といった副作用は通常量と同様に考慮しなければなりません。厳しいところですね。
適応外処方を行う場合は、患者への説明と同意の記録を残しておくことがトラブル回避につながります。院内の適応外使用ガイドラインを整備しておくと、他の医師との情報共有もスムーズになります。
クエチアピンフマル酸塩錠の禁忌・重大な副作用の詳細な記載を確認できるPMDA添付文書はこちら
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