
一過性脳虚血発作(TIA)は、脳や網膜への血流が一時的に遮断されることで、神経症状が短時間出現する疾患です。
参考)「一過性脳虚血性発作」の前兆をご存じですか? 早期発見のポイ…
発作は通常、数分から1時間程度で消失し、後遺症を残さないのが特徴ですが、これは単なる一時的な不調ではなく、脳卒中の重大な警告信号と捉える必要があります。
TIAの症状には、片側の手足や顔の痺れ・脱力、言葉が出ない・呂律が回らない、視野が欠ける・片目が急に見えなくなって真っ黒になる、ふらつき・歩行困難などが含まれます。
参考)一過性脳虚血発作
重要な点は、一過性脳虚血発作では頭痛が典型的な症状ではないということです。
参考)https://gohan-navi.jp/health_39.pdf
頭痛が現れるのは、脳出血やくも膜下出血など、出血性の脳血管障害が特徴であり、TIAのような虚血性の一過性の発作では頭痛を伴うことは稀です。
これは、TIAが血管が詰まることで血流が低下する虚血性の病態であるのに対し、脳出血やくも膜下出血は血管が破れて出血することで脳を圧迫し、激しい頭痛を引き起こすためです。
参考)https://gohan-navi.jp/health_37.pdf
医療従事者にとって重要な鑑別点は、TIAを疑う患者が頭痛を訴えた場合、他の脳血管疾患や甲状腺機能亢進症などの可能性を考慮する必要がある点です。
TIAの典型的な症状は、突然の神経脱落症状で、特に顔面や四肢に顕著な症状が現れることが多いです。
片側の運動麻痺は典型的な症状であり、患者さんは「腕や脚が動かない」と訴えます。
また、感覚障害が加わることもあり、特定の部位がしびれる、あるいは感覚が鈍くなるといった症状が見られます。
言語障害も重要な症状の一つで、患者さんは突然言葉が出にくくなるか、発話が不明瞭になることがあります。
視覚に関連する症状としては、一過性黒内障と呼ばれる一時的な視力低下や失明が知られています。
めまいやバランス感覚の障害、場合によっては意識の混濁が見られることもあります。
TIAと鑑別すべき頭痛を伴う脳血管疾患として、以下のものが挙げられます。
脳出血: 日中の活動中に発病することが多く、発病時に血圧が高く、頭痛があり、意識障害が現れてくることが多いです。
くも膜下出血: 突然頭を強く殴られたような激しい頭痛で発病します。
慢性硬膜下血腫: 転倒したり、軽く頭をぶつけたりした後しばらくして、頭痛、頭重感が始まり、やがて軽い意識障害や意欲の低下が生じてきます。
特に、TIAを疑う患者が頭痛を訴える場合は、甲状腺機能亢進症/バセドウ病による甲状腺盗血症候群や、類もやもや病(ウィリス動脈輪閉塞症)、可逆的頸部内頸動脈狭窄、可逆性脳血管攣縮症候群(RCVS)などの可能性も考慮する必要があります。
TIAの症状は数分~1時間程度で消失することが多く、消失後は通常、神経脱落症状を残しません。
ただし、単独にめまいがする、ろれつが回らない、視力低下などだけの症状は一過性脳虚血性発作とは考えられません。
TIAを疑う症状としては、以下のような組み合わせが典型的です。
TIAの主な原因は以下の通りです。
アテローム血栓性病変: 頸動脈や椎骨動脈の動脈硬化(アテローム性プラーク)から血栓やプラーク片が剥がれて脳内の血管を一時的につまらせる。
心原性塞栓症: 心房細動や弁膜症、心筋梗塞後の心臓内血栓が飛んで脳血管をつまらせる。
小血管病変(ラクナ機序): 高血圧や糖尿病に伴う脳内小動脈の硬化・狭窄で血流が一時的に低下。
その他の原因: 一過性の低血圧、血液疾患(多血症、凝固異常)、頸動脈解離(特に若年者、外傷後)。
TIAは脳卒中の重大な前兆であり、15〜20%がTIA発症90日以内に脳梗塞を発症し、そのうち半数は2日以内に脳梗塞を起こすとされています。
よって、TIAを疑えば速やかに発症機序を明らかにし、脳梗塞発症予防のための治療を直ちに開始することが重要です。
TIAの治療と予防には、以下のアプローチが重要です。
抗血小板療法: アスピリン・クロピドグレルなどの抗血小板薬を使用します。
抗凝固療法: 心房細動があれば、抗凝固療法を行います。
動脈硬化危険因子の管理: 高血圧、糖尿病、脂質異常症の管理が重要です。
頸動脈狭窄症の治療: 頸動脈狭窄症を認める場合、CEA(頸動脈内膜剥離術)やCAS(頸動脈ステント留置術)の適応を検討します。
生活習慣の改善: 禁煙、減塩、減量、運動などの生活習慣改善が重要です。
TIAと頭痛の関連性で、あまり知られていない意外な情報として、甲状腺機能亢進症/バセドウ病による甲状腺盗血症候群があります。
甲状腺盗血症候群は、巨大甲状腺腫や甲状腺機能亢進症/バセドウ病により脳血流が甲状腺へ奪われるのが原因です。
この状態では、めまい、ふらつき、吐き気、頭痛などの症状が現れることがあり、TIAと類似した症状を示すことがあります。
甲状腺盗血症候群では、拡大した甲状頸動脈・下甲状腺動脈・甲状腺の造影剤による濃染を認める特徴があります。
TIAを疑う患者が頭痛を訴える場合、甲状腺機能亢進症/バセドウ病による以下の病態も考慮する必要があります。
これらの病態は、TIAと類似した症状を示すことがあり、脳MRI・MRAを撮るべきです。