イベントリスクとは、事前に予想できない出来事(イベント)によって引き起こされる混乱や損害の危険性を指します。金融や投資の分野では、大規模テロや自然災害、パンデミックなどにより市場が急激に変動するリスクとして定義されています。 医療従事者にとってのイベントリスクは、大規模イベントや医療機関において、参加者や患者の健康に重大な影響を与える可能性のある突発的な事象全般を指します。
特に医療従事者は、感染症のアウトブレイク、多数傷病者の発生、自然災害による医療機能の停止など、人命に関わるリスクへの対応が求められます。東京2020オリンピック・パラリンピックでは、新型コロナウイルス感染症対策として徹底した検査体制や隔離プロトコルが確立され、大規模なクラスター発生を防ぐことができました。 このように、適切なリスクマネジメントの知識と準備は、医療従事者にとって不可欠なスキルです。

医療従事者がイベントリスクとしてまず認識すべきなのが、自然災害や異常気象によるリスクです。 大規模イベントや医療機関の運営において、以下のような自然災害・天候面のリスクが常に存在します。
2025年に開催された大阪万博では、夏季の猛暑対策として、給水所の増設、休憩スペースの確保、医療スタッフの配置強化などが実施されました。 実際に、熱中症による救急搬送は、気温が 30℃を超えると急増することが知られています。 医療従事者は、イベントの開催時期や場所の気候特性を事前に把握し、適切な対策を講じることが重要です。
参考)https://ictmate.jp/column/vol-21.html
意外な事実として、落雷による負傷は、屋外イベントにおいて年間を通じて発生しています。 雷鳴听到後 30 分以内に屋内退避を徹底することで、落雷事故の大部分を防止できます。 医療従事者は、イベント主催者に対して、こうした気象リスクへの対応を積極的に提案・指導する役割を担っています。
医療従事者にとって最も重要なイベントリスクの一つが、感染症のアウトブレイクです。 大規模イベントや医療機関では、多数の人が密集することにより、感染症の拡散リスクが著しく高まります。
参考)https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/001152081.pdf
厚生労働省のガイドラインでは、アウトブレイク発生時のリスク評価に必要な情報として、以下の 3 点を挙げています。
参考)https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/001152352.pdf
1. 病原体:感染性、重症度
2. 曝露:感染経路、ワクチン接種などの免疫状態
3. 背景・状況:発生場所、周囲のハイリスク者など
これらの情報を基に、アウトブレイクのレベルを「変か(ベースラインと比較して高いか)」「ひどいか(重症例や死亡例があるか)」「拡がるか(感染が継続しているか)」の 3 つの視点で評価します。
ワクチン接種は、他のどの予防対策よりも確実な感染対策といえます。 2025 年時点で、マス・ギャザリングに関連した感染症予防として日本国内で接種可能なワクチン予防可能疾患には、インフルエンザ、新型コロナウイルス感染症、麻疹、風疹、流行性耳下腺炎、水痘、髄膜炎菌、百日咳、A 型肝炎などがあります。 医療従事者は、イベント参加者や医療スタッフに対して、これらのワクチン接種を積極的に推奨する役割を担っています。
厚生労働省 医療機関におけるアウトブレイクの発生時に必要な支援
この資料では、アウトブレイク発生時のリスク評価方法や対策手順が詳細に解説されています。
大規模イベントや災害時には、事故やテロ、パニックなどにより多数の傷病者が発生するリスクがあります。 医療従事者は、このような事態に迅速かつ効果的に対応するための準備と訓練が求められます。
東京2020オリンピック・パラリンピックでは、多数傷病者対応計画として、以下の体制が構築されました。
医療従事者がイベントリスクマネジメントに関わる際の実務フローは、計画段階(イベント前)、実施段階(イベント中)、評価段階(イベント後)の 3 つに分かれます。 計画段階では、リスクアセスメントの実施、医療対応計画の策定、必要な医療スタッフ数と専門性の決定、医療資機材リストの作成などが含まれます。 実施段階では、医療チームのブリーフィング、救護所の設置と資機材の準備、情報収集と状況モニタリング、傷病者対応と記録などが行われます。 評価段階では、医療活動の総括、対応事例の分析と評価、改善点の抽出、報告書の作成、次回イベントへのフィードバックが実施されます。
医療従事者が特に注目すべき独自視点のイベントリスクが、医療機関における事業継続計画(BCP)です。 災害や感染症パンデミックなどの非常時においても、医療機関は重要な医療提供機能を維持する必要があります。
参考)BCP対策マニュアルの作り方実践ガイド【病院・介護施設対応】…
東京都のガイドラインでは、事業継続計画(BCP)を「大災害や事故などの被害を受けても重要業務が中断しないこと、若しくは中断したとしても可能な限り短い期間で再開することが出来るよう、事業の継続に主眼をおいた計画」と定義しています。 医療機関の BCP は、以下の 5 つの要素で構成されることが一般的です。
BCP 対策マニュアルの作成手順は、以下の 5 ステップで実施されます。
1. 基本方針の策定:組織のトップによる基本方針の明確化
2. 重要業務の特定:医療提供機能のうち、どの業務を優先的に継続するか
3. 事業影響分析:各業務が停止した場合の影響度を評価
4. 事業継続戦略の策定:重要業務を継続するための具体的方策
5. 事業継続計画の文書化:マニュアルとしての作成と周知
意外な事実として、医療機関の BCP では、患者や職員の安否確認だけでなく、医療廃棄物の管理や防護具の備蓄計画も重要な要素です。 接触予防策では多くの防護具が単回使用のため、大量の廃棄物が発生します。 これら廃棄物を入れる容器の準備と、使用済容器(医療廃棄物)の保管場所を検討する必要があります。
東京都保健医療局 医療機関における事業継続計画(BCP)の策定について
このページでは、災害拠点病院の BCP 策定ガイドラインや文書サンプルが公開されています。
医療従事者がイベントリスクに対処するための実践的なフローを、以下に示します。 このフローは、リスクの特定、分析、対応策の検討、実施、評価の 5 つのステップで構成されます。
ステップ 1:リスクの特定
ステップ 2:リスクの分析
ステップ 3:医療対応計画の策定
ステップ 4:実施と評価
イベントリスクへの医療対応戦略は、リスクの種類と重要度に応じて選択します。 主な戦略には以下の 4 つがあります。
実践例として、東北大学病院では、災害発生時及びそれに備えた平時の具体的な行動計画を「防災・業務継続計画(BCP)」として策定しています。 大きく「総則」、「想定する危機事象」、「危機事象発生時の対応体制」、「事前対策の実施計画」、「業務継続マネジメント(BCM)」で構成されており、実際の災害時における迅速な対応を可能にしています。
参考)災害対策マニュアル、事業継続計画(病院BCP) - 東北大学…
BCP 対策マニュアルの作り方実践ガイド【病院・介護施設対応】
この資料では、BCP 対策マニュアルの基本構成や作成手順が 5 ステップで解説されています。
## まとめ
イベントリスクとは、医療従事者にとって、事前の予測が困難な出来事によって引き起こされる健康被害や医療機能の停止などの危険性を指します。 自然災害・天候面、感染症、多数傷病者発生、医療機関の事業継続など、多岐にわたるリスクに対して、適切なリスクアセスメントと対応計画が求められます。
医療従事者は、リスクの特定、分析、対応策の検討、実施、評価の 5 つのステップを確実に実施することで、イベントにおける医療リスクを最小化し、参加者や患者の安全を確保することができます。 東京2020オリンピック・パラリンピックや大阪万博などの大規模イベントにおける実践例を参考に、医療機関やイベント現場でのリスクマネジメント能力を向上させることが重要です。
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