溶解後のフィブラストスプレーを2週間以上使い続けると、患者の創傷治癒が大幅に遅れるリスクがあります。

フィブラストスプレーの主成分はトラフェルミン(遺伝子組換え型ヒト塩基性線維芽細胞増殖因子/bFGF)です。 bFGFはFGF受容体に結合して細胞増殖を促進し、肉芽組織形成・血管新生・表皮形成の3つの経路で創傷治癒を促します。
参考)フィブラストスプレー250の基本情報・添付文書情報 - デー…
適応は「褥瘡」および「皮膚潰瘍(熱傷潰瘍・下腿潰瘍)」の2種類です。 感染が活発な壊死組織が残存している創には使用が不適切とされており、デブリードマン後など、清潔な肉芽形成促進を目的とする段階で使用することが原則です。
参考)9.肉芽の増殖(フィブラストスプレーの使用法)【褥瘡ケアとド…
規格はフィブラストスプレー250(トラフェルミン250μg/2.5mL)とフィブラストスプレー500(トラフェルミン500μg/5mL)の2種類があります。 濃度は同一であり、単純に容量の違いのみです。
参考)そうだったの?フィブラストスプレーの使用方法を徹底解説!|M…
つまり「清潔な肉芽床への促進」が基本です。
フィブラストスプレーは凍結乾燥製剤であり、使用前に添付溶解液で用時溶解する必要があります。 この「用時溶解」という手順を省略・省力化すると、薬効が著しく損なわれるため、指導せんに溶解手順を明記することが重要です。
参考)使用方法 - サイトカイン・増殖因子 - 治療用具・材料|創…
調製の具体的な手順は以下の通りです。
空押しの必要があるのは初回だけです。 2回目以降の使用時にはこの操作は不要であり、指導せんにも「初回のみ空押し5回」と明記しておくとミスを防げます。溶解液は専用品を使用してください。生理食塩液で代用した場合の安定性は保証されていません。
参考)https://fiblast.jp/howto1.html
フィブラストスプレーの噴霧距離と噴霧回数には、添付文書に明確な数値規定があります。 この数値が守られないケースが現場で散見されるため、指導せんへの記載が特に重要です。
| 患部の最大径 | 1日噴霧回数 | 噴霧距離 | トラフェルミン投与量 |
|---|---|---|---|
| 6cm以内 | 1日1回・5噴霧 | 患部から約5cm | 30μg/回 |
| 6cmを超える場合 | ずらして5噴霧を繰り返す | 患部から約5cm(各エリア) | 最大1000μg/日まで |
患部径が6cmを超える場合(葉書の短辺ほどの大きさ)は、重ならないように位置をずらして同様の操作を繰り返します。 ただし、1日投与量は必ずトラフェルミン換算で1000μgを超えないことが定められています。 これは厳守すべき上限です。
噴霧後は「30秒程度静置」し、薬剤を創面になじませてから被覆材で覆います。 静置をせずすぐにガーゼを当ててしまうと、薬剤の大半がガーゼに吸収されてしまうことになります。これは意外と見落とされがちです。
科研製薬公式フィブラストスプレー情報サイト(医療関係者向け)噴霧方法の図解あり
指導せんの中でも特に患者・介護者への説明が難しいのが「保存方法」と「使用期限」です。フィブラストスプレーは溶解後の安定性に制限があります。
参考)n/n882e5a374d6a">https://note.com/50tenarai/n/n882e5a374d6a
保存に関する必須事項は以下の通りです。
「2週間以内」という期限は、患者が自宅で管理する場面では失念されやすい情報です。 フィブラストスプレー500の場合、1日5噴霧使用で約16日分の噴霧量があります。 ところが安定性の観点から溶解後14日以内の使用が必須のため、実質的に1本2週間で使い切るスケジュールを前提に処置計画を立てることが重要です。
潰瘍の最大径が10cm程度の創が2箇所ある患者では、1日あたり計20噴霧(約120μg使用)となり、フィブラストスプレー500でも約4日で使い切る計算になります。 処方日数・本数の設定を誤ると途中で薬剤が切れ、治療の連続性が損なわれます。
参考)今日の覚書~フィブラストスプレー1本はどのくらい使えるか。|…
指導せんに「◯月◯日溶解」「使用期限:◯月◯日まで」と記入欄を設けるか、薬袋にシールで明示する運用が現場では有効です。薬剤師と看護師が連携して確認する仕組みを作るのが理想的です。
フィブラストスプレー250 添付文書(Medley):保存方法・使用期限の公式記載を確認できる
フィブラストスプレーは単独で用いるだけでなく、軟膏剤や創傷被覆材(ドレッシング材)と組み合わせる機会が多い薬剤です。 組み合わせの順序を誤ると、薬剤の吸収効率が大きく下がります。これは患者にとって大きな損失です。
他の外用剤(軟膏剤など)と併用する場合は、必ずフィブラストスプレーを先に噴霧し、30秒静置した後で軟膏剤を塗布します。 軟膏を先に塗ってしまうと、スプレーが皮膚面に届かず創面へのbFGF到達量が激減します。
創傷被覆材(ドレッシング材)と組み合わせる場合も同様に、スプレー後30秒の静置が必要です。 吸収性の高いポリウレタンフォーム系ドレッシング材では特に、静置なしで当てると薬剤の大半が被覆材に移行してしまいます。
また、目・鼻・口への誤噴霧は厳禁です。 万が一スプレーした場合は、速やかに水で洗い流すよう指導せんに必ず記載してください。在宅患者や介護者への指導場面では、この点を口頭でも繰り返し伝えることが重要です。
創傷治癒センター:フィブラストスプレーの使用方法(溶かし方・噴霧・被覆の詳細手順)
医療現場では、指導せんの記載漏れや説明の不足によって、正しい使い方が患者・介護者に伝わらないことがあります。 ここでは現場で特に問題になりやすい3つのポイントを整理します。
① 「5cm離す」距離の感覚が伝わっていない
「約5cm」とは、大人の人差し指から中指の第2関節あたりまでの長さ(クレジットカードの短辺とほぼ同じ)です。文字だけの説明では適切な距離感が伝わりにくいため、指導せんに距離感を示す図や比較物を記載することが有効です。
② 「毎日必ず使う」意識が定着しない
フィブラストスプレーは1日1回の継続投与で効果を発揮します。 入浴日や外出日に処置を省いてしまうケースが在宅では多く見られます。「患部を洗浄した後に必ず行う」という日課との紐付けを指導せんに明記し、曜日や時間帯も具体的に記入欄を設けると継続率が向上します。
③ 冷蔵保存の徹底が不十分
処置後に薬剤を室温放置するケースは、特に独居高齢者や認知症を伴う患者の介護場面で起きやすいです。 指導せんに「使ったらすぐ冷蔵庫へ」と大きく記載するだけでなく、冷蔵庫の扉に貼付する目立つシールを用意するなど、物理的なリマインダーを組み合わせる対策が効果的です。
参考)褥瘡・皮膚潰瘍治療剤 フィブラストスプレーの使い方 - Y…
| よくあるミス | リスク | 指導せんでの対策 |
|---|---|---|
| 距離・噴霧数の誤り | 薬剤の有効到達量が低下し治癒遅延 | 図示・具体的な比較物を記載 |
| 処置日の飛ばし | bFGFの継続的供給が途切れ効果減弱 | 日課との紐付け・曜日記入欄設置 |
| 室温での放置保管 | 薬剤分解・2週間使用期限の短縮 | 「使用後すぐ冷蔵庫へ」の大文字明示 |
指導せんは単なる手順書ではなく、患者と医療者をつなぐコミュニケーションツールです。 上記の3点を盛り込んだ指導せんを作成するだけで、在宅治療の成果に大きな差が出ます。薬剤師・看護師・医師が連携してフィードバックを重ねながら、指導せんの内容をアップデートしていく姿勢が、現場の質向上に直結します。
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