デジレル錠を長年処方し続けていた医師でも、販売中止後に同成分で代替できないケースが実は存在します。
参考)https://www.ygken.com/2023/10/blog-post.html

デジレル錠(トラゾドン塩酸塩)は、ファイザー株式会社が2023年10月19日に販売中止を公表しました。 出荷停止は2024年10月が目途とされ、薬価基準からの削除は2025年3月31日をもって完了しています。 医療機関・薬局の現場では、この公表から出荷終了まで約1年の猶予があったことになります。
参考)https://image.packageinsert.jp/pdf.php?mode=1&yjcode=1179037F1037
意外と短い猶予期間でした。
ファイザーの公式文書では販売中止の理由を「諸般の事情」とのみ記しており、具体的な原因は明記されていません。 医療従事者の立場からすると、処方継続の判断や患者説明のために「なぜ中止になったのか」を正確に把握しておくことが重要です。
参考)https://ibayaku.or.jp/hp/wp-content/uploads/2023/11/Druglnformation_20231128.pdf
以下の表に公式発表の時系列を整理します。
| 時期 | 内容 |
|---|---|
| 2023年10月19日 | ファイザーが販売中止を公表(3製品同時) |
| 2024年10月(予定) | 出荷終了 |
| 2025年3月31日 | 薬価基準から削除完了 |
これは見落とせないポイントです。
クラスⅡ自主回収とは、「使用・摂取により一過性の健康被害を引き起こす可能性がある、または重篤な健康被害の可能性はほとんどない」レベルの回収に相当します。直接的に重篤な健康被害が報告されたわけではありませんが、製造プロセスの透明性と承認書との整合性が問われた事案です。こうした製造管理上の問題が、先発品としての維持コストや信頼性の再構築に関わり、販売中止の背景要因の一つになった可能性があります。
後発医薬品(ジェネリック)が十分に市場に存在する状況では、先発品を維持し続けるメリットは企業にとって薄れます。つまり製造問題+後発品普及という構造が重なった形です。
参考:2020年の自主回収に関する詳細はこちら(PHARM TECH JAPAN ONLINE)
デジレル(トラゾドン塩酸塩)は、1971年にイタリアのアンジェリーニ社で開発されたトリアゾロピリジン誘導体の抗うつ薬です。 開発当初は慢性疼痛の治療薬として構想されており、後に抗うつ作用が見出されたという経緯があります。 日本では1991年から処方可能となり、30年以上にわたって現場で使われ続けました。
長い歴史を持つ薬です。
薬理的にはSERT(セロトニントランスポーター)阻害作用に加え、5HT2a/c受容体拮抗作用を持ちます。 さらにアドレナリンα1受容体およびヒスタミンH1受容体を遮断するため、強い眠気が生じる特性があります。 この眠気の強さから、臨床現場ではベンゾジアゼピン系薬剤の代替睡眠薬として低用量(25〜50mg)で使用されるケースが多く見られました。
実は適応用量は75〜200mgですが、眠気・ふらつきのために実臨床でここまで増量されることはほとんどなかったのが実情です。 25〜50mgではSERT阻害作用はほぼ発現せず、H1受容体遮断と5HT2c拮抗が主体となります。ベンゾジアゼピン系の乱用リスクが問題視される現代では、依存性の少ない睡眠補助薬として非常に重宝されていた薬です。
デジレルには同成分・同力価の「レスリン錠(MSD)」が長年併売されており、最もスムーズな切替え先の一つです。 さらに後発品として「トラゾドン塩酸塩錠25mg『アメル』」(共和薬品工業)への切替えが実施予定として医薬品情報でも明示されています。 切替えの際に処方箋の変更が必要になるため、薬局との連携確認が先決です。
参考)デジレルが販売中止になると薬剤師さんから突然言われ、デジレル…
切替え先の確認が最初のステップです。
| 製品名 | メーカー | 種別 | 備考 |
|---|---|---|---|
| レスリン錠25mg/50mg | MSD | 先発品(併売) | デジレルと同成分・同適応 |
| トラゾドン塩酸塩錠25mg「アメル」 | 共和薬品工業 | 後発品 | 薬局での代替として推奨 |
| トラゾドン塩酸塩錠(各社) | 複数メーカー | 後発品 | 供給状況を確認の上選択 |
注意すべき点として、院内処方での採用品目変更と、後発品への変更同意書の取り扱いが施設ごとに異なります。患者に対しては「薬の名前は変わっても成分・効果は同じ」と明確に説明することが、アドヒアランスを維持するための基本対応です。
参考:院内採用品目変更の対応例(山梨大学医学部附属病院)
販売中止に伴うオーダ中止について(山梨大学医学部附属病院)
デジレルの販売中止は、日本における先発品医薬品市場の構造的変化を象徴する一例でもあります。後発品普及率が80%を超えた現在、後発品が揃っている成分の先発品は採算性の面で維持が難しくなってきています。 厚生労働省が推進するジェネリック医薬品使用促進政策の下では、先発品メーカーが「諸般の事情」として製造販売を終了するケースが今後も続くと見込まれます。
これは構造的な流れです。
医療従事者にとって重要なのは、個々の薬剤の販売中止情報をリアルタイムで把握する仕組みを持つことです。DSJP(医療用医薬品供給状況データベース)では、供給停止・限定出荷・販売中止予定品目を検索できます。 処方する薬剤が突然入手困難になるリスクを最小化するために、こうしたデータベースを定期的に確認する習慣が現場の安全管理につながります。
参考)https://drugshortage.jp/list-sub.php?sub=1179037F2050
また、今回のデジレルのように先発品が消えても後発品が存続するケースでは、患者への継続的な薬剤供給は維持されます。一方で、後発品自体も供給不安が続く成分(特に主要製造拠点が海外に集中している場合)では、代替薬が全くなくなるリスクもあります。薬剤師との情報共有体制を整えておくことが、今後の処方管理の柱になるでしょう。
供給情報のリアルタイム確認に有用なリソース。
DSJP 医療用医薬品供給状況データベース:デジレル錠のページ
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